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患者さんと医師の座談会『患者さんと医師が共に取り組むCIDP診療とは?』

患者さんと医師の座談会
『患者さんと医師が共に取り組むCIDP診療とは?』

  • 【司会】
  • 【出席】
  • 千葉大学大学院医学研究院 脳神経内科学 名誉教授桑原 聡先生
  • 獨協医科大学 脳神経内科 教授国分 則人先生
  • 京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 健康情報学分野 教授中山 健夫先生
  • 全国CIDPサポートグループ 理事長鵜飼 真実さん
  • 全国CIDPサポートグループ猪瀬 博久さん
  • 【司会】
  • 千葉大学大学院医学研究院 脳神経内科学
    名誉教授
    桑原 聡先生
  • 【出席】
  • 獨協医科大学 脳神経内科
    教授
    国分 則人先生
  • 京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻
    健康情報学分野 教授
    中山 健夫先生
  • 全国CIDPサポートグループ
    理事長
    鵜飼 真実さん
  • 全国CIDPサポートグループ猪瀬 博久さん

はじめに

CIDPの診療においては、治療および治療ゴールの考え方について、患者さん側と医療者側との間にギャップが生じている場合があります。このギャップを埋め、ともに同じ治療ゴールをめざすためのコミュニケーション手法の一つに、シェアード・ディシジョンメイキング(shared decision making;SDM)があります。SDMとは、患者さん側と医療者側が情報を共有し、話し合いを重ねて治療の方針を決めていく考え方です。本座談会では医療者側から桑原先生、国分先生、中山先生、患者さん側から全国CIDPサポートグループの鵜飼さん、猪瀬さんにお集まりいただき、患者さんと医師のコミュニケーションについて、SDMの考え方を含めて話し合っていただきました。

コンテンツ

  • SDMとは?
  • 患者実態調査の結果から
  • 患者さんが医師へ伝えたいこと、聞きづらいこと
  • 医師が患者さんへ伝えたいこと、説明時に配慮していること
  • おわりに

開催日:2025年3月30日(日)会場:帝国ホテル 東京

SDMとは?

中山 健夫 先生

SDMは、患者さんと医療者が
「ともに決める」医療

CIDPの診療においては、治療および治療ゴールの考え方について、患者さん側と医療者側との間にギャップが生じている場合があります。このギャップを埋め、ともに同じ治療ゴールをめざすためのコミュニケーション手法の一つに、シェアード・ディシジョンメイキング(shared decision making;SDM)があります。SDMとは、患者さん側と医療者側が情報を共有し、話し合いを重ねて治療の方針を決めていく考え方です。本座談会では医療者側から桑原先生、国分先生、中山先生、患者さん側から全国CIDPサポートグループの鵜飼さん、猪瀬さんにお集まりいただき、患者さんと医師のコミュニケーションについて、SDMの考え方を含めて話し合っていただきました。

SDMは患者さんと医療者で目標を定める

インフォームド・コンセントは、ある病気に対する標準的な治療の選択肢が明確な場合に適した手法です。医療者は標準的な治療に関する情報を患者さんに提供し、説明します。患者さんが理解し、納得し、同意することによって治療が始まります(図1左)。
SDMは、ある病気に対する標準的な治療の選択肢が複数あり、患者さんにとってどれがより良い治療なのか、患者さんも医療者も最初はわからない場合に適した手法です。患者さんと医療者が、お互いがもつ情報を共有し、対話を重ね、患者さんと医療者が合意することによって治療が始まります(図1右)。

図1 インフォームド・コンセントとSDMの違いの模式図

インフォームド・コンセントとSDMの違いの模式図
患者さんと医療者が対話を重ね、共有する「情報」「目標」

SDMでは「情報」と「目標」を共有するために、患者さんと医療者が対話を重ねます。
医療者側がもつ情報とは、治療選択肢とそのメリットとデメリットです。また、患者さんがもつ情報とは、何を大事にしたいか、何を楽しみにしているかといった価値観やライフスタイルです。
患者さんと医療者が、最初から同じ目標をもっているとは限りません。情報を共有するための対話を通じて、治療の目標の共有をめざします。

CIDPの診療とSDMの重要性

CIDPは、長期間にわたって治療を継続することが必要な病気です。また、CIDPには複数の治療法があります。だからこそCIDPは、SDMの考え方に基づいて患者さんと医療者がともに考え、ともに悩み、治療法を「ともに決める」ことが大切な病気だと思います。
2024年に発刊された『慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー、多巣性運動ニューロパチー診療ガイドライン2024』(作成委員会委員長:桑原聡先生)は医療者向けに作成されているガイドラインですが、本会にも参加しておられる全国CIDPサポートグループ理事長の鵜飼真実さんが、作成委員のお一人として名を連ねておられます。患者さんの価値観や意見の反映をめざして作成された本ガイドラインが、SDMの考え方に基づいたCIDP診療の広がりに役立てられていくことを願っています(図2)。

図2 SDMと診療ガイドラインの連携

インフォームド・コンセントとSDMの違いの模式図

患者実態調査の結果から

鵜飼 真実 さん

診察や治療に「満足している」と回答した方の割合が増加

診察や治療についての満足度を2017年の調査と2024年の調査とで比較したところ、「十分に満足している」、「おおむね満足している」と回答した方の割合が増えていました。一方で「あまり満足していない」と回答した方の割合は減っています(図3)。
満足している理由は、「信頼できる医師である」、「細かい検査をしてもらった」、「十分な治療を受けている」などでした(図4)。満足していない理由は「専門医がいない」、「CIDPをあまりご存じでない」、「消極的」などです。

図3 診察や治療についての満足度

診察や治療についての満足度

図4 満足・不満足の理由

満足・不満足の理由
医師の説明に対する十分な理解が重要

グループ会員からの相談で多いのが、医師の説明に関するものです。「ステロイドの減量理由がわからない」、「免疫抑制剤が変更されたため不安になった」、「免疫グロブリン静注療法(IVIg)の間隔を変える理由を聞かされていない」など、治療変更時に十分な説明がないと感じたとき、患者は不安になります。
患者側も「医師が忙しそうだから質問できない」、「よくなっていないと言ったら悪いと思った」などの遠慮や、「1) 全国CIDPサポートグループによる慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)およびその類縁疾患の患者実態調査報告書 令和7年(2025年)医師の感じが悪いから話す気がしない」という理由で、医師とのコミュニケーションを避けることもあります。

説明を支援するツールの活用を

確定診断のとき、遠位型であるのか多巣性であるのかなど、障害を受けている部位がわかっている場合は、体のどこが障害を受けているのか、人型の図を使って説明していただけると、患者も理解しやすいと思います。当グループが作成しているしおりや、製薬会社が提供しているリーフレットなどを活用していただきたいと思います。
また、確定診断を受けたことで混乱状態に陥り、その場で説明を受けても十分に理解できない患者もいると思います。家に持ち帰って、落ち着いたときに読める資料があると、患者が疾患について理解するのに役立つと思います。

【文献】1) 全国CIDPサポートグループによる慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)およびその類縁疾患の患者実態調査報告書 令和7年(2025年)

患者さんが医師へ伝えたいこと、聞きづらいこと

桑原鵜飼さんに紹介していただいた患者実態調査の結果とサポートグループに寄せられた相談内容から、患者さんと医師の間で、コミュニケーションがうまくいっていない場合があることがわかりました。
本日、鵜飼さんと猪瀬さんのお二人には、CIDPの患者さんの立場で本座談会に参加していただいています。患者さんの立場から、医師に伝えたいこと、聞きづらいと感じていることはありますか。

「医師は常に忙しいのではないか……」と、遠慮してしまうことも

猪瀬調査結果でも示されていたように、医師は常に忙しいのではないか、診察時に何か提案するのは申し訳ない、と思ってしまいます。
ただ、中山先生のお話を伺い、それは私が病気に向き合っていなかったことにも原因があるのではないかと気づきました。医師に治療を任せきりで、対等な関係を築くことができていませんでした。これがコミュニケーション不全の一因なのかもしれません。

桑原ありがとうございます。診察室で医師が忙しそうな素振りをしていると、患者さんに気を遣わせてしまう場合があるかもしれませんね。

サポートグループとして、医師とのコミュニケーションに悩む方を支援していきたい

鵜飼グループの会員から寄せられる相談の中では、診察室に入ると頭が真っ白になって何も話せなくなる、という方が結構いらっしゃいます。医師の雰囲気に気圧されて何も話せない、何も話したくないと思ってしまう方もいます。ベテランの先生であっても、若手の先生であってもです。主治医ではなく、院内で接する他の医師に聞けば教えてくれることでも、聞けないと言います。
そのような患者さんに対してサポートグループとしてできるのは、医師と話せるようになるための知識を備える支援することだと考えています。

医師が患者さんへ伝えたいこと、説明時に配慮していること

桑原立場を逆にして、医師が患者さんへ伝えたいこと、説明時に配慮していることについて、国分先生に伺いたいと思います。

脱力症状の出現部位と程度を正確に把握し、患者さんと共有するよう留意しています

国分患者実態調査における患者さんが診察・治療に満足していない理由の多くは、私も実際に耳にしたことがあります。だからこそ、不満を抱かれることのないよう、配慮に努めています。
1日の診察時間には限りがあるので、詳しく説明する時間がとれないことは確かにあります。十分な説明を希望される患者さんには、次回の予約を最後の時間帯にお取りいただくようお願いすることがあります。
また、CIDPの患者さんを診察する際には、脱力の症状が体のどの部位に、どの程度出現しているのかを正確に把握し、患者さんと共有しています。
患者さんへの説明時には、CIDPの確定診断は非常に難しいことを伝えています。CIDPは診断基準を満たし、除外診断が成り立った上で診断されます。経過の途中で別の病気が判明すると、診断が変わってしまいます。患者さんに、このことをあらかじめ説明しておく必要があると思います。

おわりに

桑原SDMの考え方に基づいたCIDP診療を広げていくためには、何が必要でしょうか。

国分インフォームド・コンセントにしてもSDMにしても、その前提となる患者さんと医療者の間のコミュニケーションが、残念ながらうまくいっていないケースがあると思います。患者実態調査の結果も踏まえて、まずは十分な説明を行うよう努めること、そして患者さんが相談しやすい環境を整えることが、医療者には求められるのではないでしょうか。

中山患者さんもまた、病気や治療に向き合い、これまでは知らなくてすんでいたことも知る必要があるので、ある意味、大変に感じるかもしれません。ですが、病気や治療について知ることで医療者と話せるようになることは多いですし、自分が望む治療を受けることにもつながります。楽なことばかりではありませんが、時代は良い方向に進んでいるのではないかと思います。

猪瀬患者と医療者が情報を共有し合って治療方針を決めるSDMの考え方が浸透していく。いまはその過渡期にあるのではないかと感じました。私も医療者が提供する情報を待つ受身の姿勢でいたのかもしれません。この姿勢を改めていきたいと思いました。

鵜飼患者同士のコミュニティの中で病気や治療に関する誤った情報が広まったり、治療に関してまだわかっていないことや副作用を必要以上に恐れたりすることで、医療者とのコミュニケーションがうまくいかなくなってしまう場合があります。患者が正確な情報に触れること、理解を支援することも、サポートグループの役割として大きくなっていくと思います。

桑原SDMの普及のためには、患者さんと医療者が意識を変えて情報を共有して、共有した情報に基づき、対話によって意思決定を行うよう努めることが大切ですね。本日はありがとうございました。

JPN-HCI-0966